以下はジャン=フランソワ・ルヴェルが『反米妄想』の第1章「真実から目をそむけるヨーロッパ」の中で書いていた文章の抜粋である。
----私が知る限りでは、20世紀を暗黒の時代にしたのは、間違いなくヨーロッパである。ヨーロッパの政治とモラルのあり方が、二度に渡る世界大戦のような大混乱をひき起こしたのだ。この混乱は、史上最悪の犯罪的二政体(ヒトラーのナチズムとスターリンの共産主義)を実現させた。この悪と愚劣の頂点に、ヨーロッパ がたどりつくのに30年とはかからなかった。
二度の世界大戦とふたつの全体主義をひき起こしたのがヨーロッパの失策なら、第三世界に植民地化と いう後遺症を残し、発展途上国に行き詰まりや混乱を起こさせたのも、もとをただせばヨーロッパに責任が ある。イギリスやベルギー、スペイン、フランス、オランダ、これに遅れてやや小規模ながらドイツ、イタリア などのヨーロッパ諸国は、互いの領土を略奪しようと争った。そのヨーロッパが、アメリカのインディアン迫害や黒人の奴隷制などに反論しても説得力はない。当時、将来アメリカとなる土地を先住民から略 奪・占領したのも、植民地支配を行ったのも、ヨーロッパからの移住者ではなかったのか? さらに、彼らはヨ ーロッパの奴隷商人から奴隷を買っていたのではなかったか。----
引用は以上である。
要するに、ルヴェルは、「ヨーロッパ人は自分たちのやらかしたヘマの結果をアメリカになすりつける欺瞞の日々にいそしんだまま平然とすまし込んでいる」と言っているのである。
将来において世界に崩壊現象がひき起こされることがあるとするなら、そのような「現代のヨーロッパ精神」こそがその原因を作る役目をするだろう。
グローバリズムと貧困問題に関して、世界の住人たちがまだはっきりとつかんでいない事実がある。た とえば今アフリカ大陸を支配している政治的現実のことである。ルヴェルの発言をま た引用する。
----アフリカ諸国の経済を破壊し、発展への足枷となっているものは、市場主義より国家統制論、資本主義より社会主義が支配する現状である。アフリカ諸国のほとんどは、「ヨーロッパで学業を修めた少数のエリート」が政府の要職に就き、ソ連や中国のシステムを採用して国政を執っている。彼らは絶対的権力を我が物として、個人資産を増やす手段を 手中に収めた。彼らの狙いは、貧困層が空腹を満たすことではなく、「社会主義の産物である深刻な貧困化」を資本主義のせいにすることなのだ。
アフリカの特権階級による、ソ連や中国を真似たコルホーズ(集団農場)政策や、地方の寡頭政治による国際援助資金の恥知らずな浪費の他に、市民や国家間の絶え間ない戦争、宗教戦争、国家の消滅、部 族間の人種差別、民族大虐殺などが、アフリカ民族を貧困に陥れ力を奪った、主なそして唯一の説明である。
これらの国が機能しないのは、彼らが自由主義ではなく国家統制主義を、資本主義ではなく社会主義を 選択したからだ。そして、延々と続く内戦がアフリカ諸国全体を破壊に導いている。アフリカ諸国が破滅し かけているのは、経済的な要因よりも、政治的、思想的、部族的なそれによるところが大きい。----
あなたはテロリストを養成している西南アジアや中東やアフリカの国家群が「どんな政治体制を持った国家群か」調べたことがあるだろうか。その多くはヨーロッパで社会主義あるいは共産主義思想を学んだエリートたちによって運営された失敗した国家群なのである。
だがヨーロッパにしても日本にしてもそうだが、社会主義こそが最上の国家統治思想だと、いまなおそのような思考態度にシンパシーを感じている学者やマスコミ連はその肝心な部分だけはいつも伝えないままなのである。
そして彼ら自身の失敗を資本主義やあるいはアメリカという国家のせいにして責任逃れをしてきたのである。北朝鮮がアメリカを帝国主義と規定して、「自分たちの失敗を自国民には決して知らせない行為」とどこが違っているだろうか。「左傾人は自己反省しない」のが通り相場である。それは「世界のどこに行っても同じ精神」なのだから。
私はかねてよりイスラム戦士を名乗るテロリストの養成は、実はヨーロッパで「左翼思想」に刺激を受けて戻ってきたインテリたちによって行われているとずっと言い続けてきた。
また、イラクはイスラム教国家ではなく、カダフィ大佐の社会主義人民リビア同様、共産主義というヨーロッパ発の全体主義(あるいは武装革命)思想に国家の土台を置いている、だから今起こっていることを宗教対決なぞと思ってはいけない、そうではなく事実は共産主義者がイスラム教を武装闘争の隠れ蓑にしているのだ等の話をしてきた。そのような話を日本の識者が公に口にする場面なんぞ見たこともなかったが『反米妄想』ではその事実もちゃんと語ってくれている。以下引用する。
----アル・カイダの訓練基地で兵士に渡されるマニュアルが、イギリスで英訳されて出回っているが、そこには聖戦の原則や目的がはっきりと明記されている。これに引用されている哲学的記述を見れば、著者(複数)が無学な者ではなく、おそらく欧米で学業を積んだ者であろうことがわかる。彼らは西洋思想を心得た上でマニュアルを記している。例えば「我々が対決を訴える背信的なこれらの国家は、ソクラテスの対話やプラトン思想、アリストテレスの外交というものを無視している。一方この闘いは殺人や爆撃、破壊、大砲や機関銃の理想的な姿を知っている。我々に与えられた使命は、神を崇拝しない国家を打倒し、我らイスラム教国家がこれにとって代わることにある」。このマニュアルはほんの一例にすぎず、同様の出版物は枚挙にいとまがない。テロリストの頭の中ににあるのは、地上からあらゆる悪を撤廃し、善なるもの、つ まりイスラム教を代わりに据えるという目的だけである。
イラクはイスラム教国家とはいえない。なぜならこの国は基本的に無宗教主義であり、サダム・フセインは自国に住むシーア派教徒や北部のクルド人(ともにイスラム教徒)を平然と化学兵器で殺害できるからだ。 アメリカのことを許せないというイスラム教徒が、他のイスラム教徒が攻撃されるのを見て何ともないという のは不思議な話だ。----
今世界のすべての民族内部にいる混乱した魂の持ち主は、たえずヨーロッパ人の脳髄から生み出され た共産主義思想=全体主義=反米思想から戦いのヒントと動機を得ているのである。
もう少しルヴェルから引用してみよう。
----イスラム教徒の欺瞞のなかでも一番ひどいのは、テロリストたちがアメリカに対する敵対心を正当化したこ とである。かなり以前から今日に至るまで、アメリカは、イギリスやフランス、ロシアに比べ、できる限りイスラム教国家に干渉しない政策をとってきた。ヨーロッパの強国は、イスラム教国家を、何十年も、時には1世紀以上も、繰り返し征服し、侵略し、抑圧してきた。しかしアメリカがイスラム教国家を植民地化したことはない。アメリカ人が彼らに特別な敵対心を抱いたことはなかった。それどころか、ソマリアやボスニア、コソボに軍事介入したのも、マケドニア政府に圧力をかけたのも、少数派イスラム教徒を擁護するのが目的 であった。イスラエルが創立された歴史的背景には、ヨーロッパの反ユダヤ感情が大きく関与していたのであって、アメリカは無関係であったことも思い出してほしい。
テロリズムの唯一の原因が、経済の不均衡と世界中に散在する貧困であるとする理論は説得力に欠け る。テロリストの大半は、世界でも最も裕福なイスラム国家の、裕福な家庭の出身である。また「彼らの多 くは欧米の大学を卒業している」。この新しいハイパーテロリズムの本質的根源は、イスラム原理主義者 の作り上げた偏狭なイデオロギーである。-----
イスラム教徒という呼称に騙されてはいけない。今アラブ世界は全体主義思想に蹂躙されている最中である。イスラム原理主義者は全体主義思想の体現者という意味で、共産主義思想やナチズムと同根の心理状況を生きている。また彼らは「偏狭な道徳家」となって「他者の小さな道徳的瑕疵」さえ許容できなくなっている。連合赤軍を描いた映画『光の雨』を見るとよい。彼らがいかに他者を「自分たちの指導するように、正しく考え、感じることができない」という理由で道徳的に責めたて、「死の制裁」を加えてきたか。自己批判とは左翼人が用いた言葉である。彼らはそれを強要し、拒絶する者には死の制裁を加えてきた。「アフガニスタンの全体主義者」だったタリバンは同胞に対して「連合赤軍幹部」がやったのと同じ「道徳的要求」を行い、多くの同胞をみせしめに殺してきたのではなかったか。そしてビン・ラディンのアルカイダも「道徳的批判」を掲げながら、殺戮を繰り返すことに躊躇しない集団である。
彼らすべての脳髄には「同じ規格」の1本の穴が開いている。そしてその中を「一本の同じ太さの輪っか」 が通っている。その輪っかは「各々の脳髄の穴」を通り抜け、「円」を描いて結ばれあっているのである。そ の鍵束のようになった輪っかの端っこを、一体「どんなひとつ情念」が握っていて、その「鉄の輪」のようなものに 結ばれ合った者たちの頭を揺らしながらジャラジャラと音をたてているのか?よく見ると、その輪っかには「われら全体(社会)主義者を讃えよ」と書いてあることに、注意深い人は気がつくに違いない。
(注)かつてBBSで公開した拙文を改訂再掲示させていただきました。
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